知的財産法 後期第11回
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本日のレポート課題は授業にて説明します。
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商標権侵害とは?
以下の条文から、商標権侵害の要件を考えてみよう。・・前回の授業で意匠権の侵害の要件を検討しましたが、意匠権の場合と同様でしょうか?
商標法の条文
商標権
発生・・第一八条 商標権は、設定の登録により発生する。
存続期間・・第一九条 商標権の存続期間は、設定の登録の日から十年をもつて終了する。
2 商標権の存続期間は、商標権者の更新登録の申請により更新することができる。
3 商標権の存続期間を更新した旨の登録があつたときは、存続期間は、その満了の時に更新されるものとする。
商標権の効力
第二十五条
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。
ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。
(意匠権の場合の効力)
第二十三条 意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有する。
侵害とみなす行為
(侵害とみなす行為) 第三十七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用
二 指定商品又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
三 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
四 指定役務又は指定役務若しくは指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録商標又はこれに類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
五 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をするために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を所持する行為
六 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
七 指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について登録商標又はこれに類似する商標の使用をし、又は使用をさせるために登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造し、又は輸入する行為
八 登録商標又はこれに類似する商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、又は輸入する行為
(侵害とみなす行為) 第六十七条 次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
一 指定商品又は指定役務についての登録防護標章の使用
二 指定商品であつて、その商品又はその商品の包装に登録防護標章を付したものを譲渡、引渡し又は輸出のために所持する行為
三 指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録防護標章を付したものを、これを用いて当該指定役務を提供するために所持し、又は輸入する行為
四 指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に登録防護標章を付したものを、これを用いて当該指定役務を提供させるために譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持し、若しくは輸入する行為
五 指定商品又は指定役務について登録防護標章の使用をするために登録防護標章を表示する物を所持する行為
六 指定商品又は指定役務について登録防護標章の使用をさせるために登録防護標章を表示する物を譲渡し、引き渡し、又は譲渡若しくは引渡しのために所持する行為
七 指定商品又は指定役務について登録防護標章の使用をし、又は使用をさせるために登録防護標章を表示する物を製造し、又は輸入する行為
どういう行為が商標権の侵害となるでしょうか。その要件を列挙してみよう。
商標権侵害の要件とは? 受講生の回答
権原なく
他人が
登録した商標と同一もしくは
類似する商標を
使用すること
または
他人が登録した
商標に関する商品・役務
類似する・商品・役務
についての登録商標
あるいは類似する商標
を使用する
業として使用
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問:木林森は、大森林の商標権を侵害するか?
演習:ポパイ事件
原告商標
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被告製品
https://gyazo.com/c57f27aa97e4c4c53f77b67306b45532https://gyazo.com/24003b043ac9babc443acf90ee5e38cc
https://gyazo.com/53ead9f413760be00eb2d8afef7ece5ahttps://gyazo.com/3afdfdd4a540edaffe02ae5afb273626
出典:大阪地方裁判所 昭和51年2月24日 昭和49(ワ)393 添付資料より
ポパイ事件:被告が業として子供用アンダーシヤツに、乙、丙各標章を附し、さらに、右標章を附した商品を販売等する行為は、原告商標権を侵害するか、検討しなさい。
侵害に対する救済
差止請求権
(差止請求権) 第三十六条 商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 商標権者又は専用使用権者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な行為を請求することができる。
損害賠償請求権
商標権侵害に基づく損害賠償請求の法的性質は民法709条以下の不法行為に対する損害賠償請求
商標法上の特例
https://gyazo.com/1c4eb15596b0565d643adafa1c7b8601
民法709条による損害賠償請求の要件事実は下記のとおりである。
イ 権利又は法律上保護される利益の存在
ロ 当該権利の侵害(違法性)
ハ 侵害行為が故意又は過失によりなされていること
(商39条準用特103過失の推定)
ニ 相当因果関係のある損害の発生とその額
(商38条損害額の推定)
信用回復措置請求権等
(特許法の準用) 第三十九条
特許法第百三条 (過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。
商標権侵害につき商標権者側が主張すべき事実
① 原告の商標権の存在
② 被告の使用行為
③ 権利侵害
侵害の要件を全て充足していることを主張立証
④ 損害(損害賠償請求の場合)
侵害の主張を受けた場合の対抗策
商標権侵害の主張に対し、どのような対抗策があるか考えてみましょう。
侵害の主張を受けた場合の対抗策
商標権者は
① 自己が商標権者であることを商標登録原簿を示して主張し
② 被告の使用行為がどのような形態であるかを示し
③ その行為が権利侵害であることを主張・立証する
それに対し、被告は、争わずに和解することもありうるが、争う場合には、上記した対抗策を打つことになる。
その際に主に争点となる点を考察してみたい。
商標の同一・類否判断
登録商標と同一・類似の商標を使用すると侵害
商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。右のとおり、商標の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、右三点のうち類似する点があるとしても、他の点において著しく相違するか、又は取引の実情等によって、何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては、これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和三九年(行ツ)第一一〇号同四三年二月二七日第三小法廷判決・民集二二巻二号三九九頁参照)
類否判断の基礎:登録商標等の範囲
第二十七条
登録商標の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定めなければならない。
2 指定商品又は指定役務の範囲は、願書の記載に基づいて定めなければならない。
3 第一項の場合においては、第五条第四項の記載及び物件を考慮して、願書に記載した商標の記載の意義を解釈するものとする。
商標の同一性(色彩についての特則)
(登録商標に類似する商標等についての特則)
第七十条 第二十五条、第二十九条、第三十条第二項、第三十一条第二項、第三十一条の二第一項、第三十四条第一項、第三十八条第三項、第五十条、第五十二条の二第一項、第五十九条第一号、第六十四条、第七十三条又は第七十四条における「登録商標」には、その登録商標に類似する商標であつて、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるものを含むものとする。
2 第四条第一項第十二号又は第六十七条における「登録防護標章」には、その登録防護標章に類似する標章であつて、色彩を登録防護標章と同一にするものとすれば登録防護標章と同一の標章であると認められるものを含むものとする。
3 第三十七条第一号又は第五十一条第一項における「登録商標に類似する商標」には、その登録商標に類似する商標であつて、色彩を登録商標と同一にするものとすれば登録商標と同一の商標であると認められるものを含まないものとする。
4 前三項の規定は、色彩のみからなる登録商標については、適用しない。
商標権侵害訴訟の事例
https://gyazo.com/97cc71b9f28636e978c0e0781cafe23dhttps://gyazo.com/bfa862b8371b92205a90772e693f6154
被上告人(被告)の行為
被上告人は、持帰り品としてのすしの製造販売業
株式会社小僧寿し本部のフランチャイジーであり、四国地域におけるフランチャイザー。全体として組織化された一個の企業グループ(フランチャイズチェーン)を形成。
遅くとも昭和五二年には、小僧寿し本部は「小僧寿し本部」あるいは 「小僧寿し」と略称され、右企業グループを示す名称として「小僧寿しチェーン」 が使用されていた。
被上告人は、四国地域において、昭和四七年から、別紙標章目録記載の各標章を使用。
小僧寿し本部は、被上告人標章三(1)につき、指定商品を第三二類「食肉、卵、食用水産物、野菜、果実、加 工食料品」として商標登録出願をし、昭和五一年一二月一六日に設定登録(登録第 一二四二三一五号)を受けた。
遅くとも昭和五三年には、「小僧寿し」の名称は、小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンを示すもの として広く認識されており、本件商品の取引において「小僧寿し」といえば、一般需要者の間で小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンの略称として通用するものとなっていた。
小僧寿し事件の特殊性
商標権者の出願「小僧」より後に、小僧寿しチェーンが全国的に著名となった。
商標権者は、大阪で、「おにぎり小僧」という形で、小規模で使用していただけ。
小僧寿しチェーンに先使用権はないが、全国規模での使用により、業務上の信用が蓄積されている。
類否判断
https://gyazo.com/e93c7ad8586294b2e667c78f317c3022https://gyazo.com/52fe77ec11ab59ce3709f13030a8101ehttps://gyazo.com/7d31da25ba94446c47eec69bf9105a3e
目録1・・・「小僧寿し」 は、一連のものとして称呼され、全体が不可分一体のものとして、小僧寿しチェーン又は本件商品を観念させるものとなっていたと解するのが相当。各標章の「小僧」又は「KOZO」の部分のみから「コ ゾウ」なる称呼を生ずるということはできず、右部分から「商店で使われている年少の男子店員」を観念させるということもできない。
目録2の(1)(3)は、類似
目録3・・・著名な企業グループである小僧寿しチェーンを想起し、右各標章から「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」なる称呼を生ずる余地はあるが、「商家で使われている年少の男子店員」の観念や「コゾウ」の称呼を生ずるものとは認められない。
https://gyazo.com/19c014c3aa5327e688124b44f5a55c8d
参考:商標権紛争とその対応 特許庁